『ジャン=リュック・ナンシー−分有のためのエチュード−』ほか

ジャン=リュック・ナンシー (哲学の現代を読む)

ジャン=リュック・ナンシー (哲学の現代を読む)

『ジャン=リュック・ナンシー−分有のためのエチュード−』澤田直/白水社/2940円)
待望のナンシー論! カント、ヘーゲルハイデガーなど歯ごたえのある哲学者たちと格闘しながら、〈共同体〉〈自由〉〈正義〉といった伝統的な問題系を正統的に引き継ぎつつ、常にアクチュアルな事象や映画・音楽・美術・ダンスにもしなやかに接合する、現代最高の哲学者ナンシー。デリダ亡き後、フランス思想界で最もその発言が注目される人である。これまで発表された大小合わせて六十以上の著作のうち、半分近くが訳されるほど日本における関心や人気は高いが、彼のテクストを読み解くことは、決して容易くはない。本書は、ナンシーの思考や文体(むしろ彼独特の言葉の感覚と言おうか)の特徴を鮮やかに分析し、その「手強さ」の所以を明らかにする。読み方の「こつ」を押さえた上で、その膨大な著作の何からどう読んでいくべきか? まず導入として、心臓移植という自らの体験を語った『侵入者』。非常に薄いが、具体的かつ本質的なこの本は、入門として最適である。次に、「共生」を中心テーマに据えた『無為の共同体』『自由の経験』。続いて、イメージ論『イメージの奥底で』『肖像の眼差し』を経て、年々益々主要テーマとなっているキリスト教脱構築を扱った『訪問』『私に触れるな』『脱閉域』へ。折に触れその他の著作もさまざまに引用されるが、以上の厳選されたタイトルが一冊一冊じっくりと読み解かれていく。ナンシー思想の全体像が初めて浮かび上がるファン待望の一冊。
 
ビートルズ作品読解ガイド(増補版)

ビートルズ作品読解ガイド(増補版)

『ビートルズ作品読解ガイド 増補版』(秋山直樹/ブイツーソリューション/1974円)
1960年代の音楽市場を席巻したビートルズ。その後期オリジナル作品の歌詞を徹底分析する。取り上げるのは、1967年夏以降に発表された81曲、および同時期に録音されながらも後年まで音盤化されなかった14曲の、合わせて95曲。十二分な英語の知識、緻密な英文読解力、そして当時のビートルズに関する詳細な情報を駆使して、抽象的で難解と思われている歌詞を解説する。増補版では、後発の14曲を追加するのみならず、原版で解剖した81曲をさらに詳しく説明している。
 
ランシエール―新〈音楽の哲学〉 (哲学の現代を読む 5)

ランシエール―新〈音楽の哲学〉 (哲学の現代を読む 5)

『ランシエール−新〈音楽の哲学〉−』市田良彦/白水社/2730円)
本書に登場するのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドのメンバーたちであり、フランク・ザッパであり、黒人ブルースメンの猛者たち。彼らの音楽創造のプロセスがランシエールの〈美学〉〈政治〉の概念(「分け前なきものたち」の舞台こそが政治である)に呼応することを、著者はあきらかにしていく。本邦初の本格的ランシエール論であるとともに、言語としての音楽が「人民」のコール&レスポンスによってねりあげられていく、ブルース〜ロックンロールの生成過程をみごとに解析する書である。「プロレタリア」が彼らの「夜」を音楽的に遂行し、結晶させるまで……才能も歴史も、もはや不要である。
 『NHKさかのぼり日本史 外交篇 6(戦国) 富と野望の外交戦略−なぜ、大航海時代に戦国の世は統一されたのか−』( /NHK出版/1365円)
鉄砲とキリスト教――二つの伝来が日本を一変させた。信長・秀吉・家康の出現により、乱世は終焉を迎える。その裏には、海外との貿易で生まれた富をめぐる戦国大名の生き残りをかけた外交戦略があった。